-->Natsuya Amano view point

高校に入学した年から、よく悪夢を見るようになった。
朝起きると何を見ていたか忘れてしまうが、
それはきっと良くない事だったと言う事位は理解していた。
それでも、それを認めるのが恐ろしくて、俺は夢を見たかもしれないということを忘却した・・・。

「う・・・ん、今日もいい朝だ」
俺は布団からはい出てカーテンを雑把に開く。
カーテンを開くと上りかけの太陽が俺の目を刺激した。
太陽が黄色い、今日もやはり寝不足だ。


中学に入ってから家庭内暴力、もとい親族内暴力・・・・というかイジメ?に耐え切れなくなった俺は、その時から家を出て一人暮らしをするようになった。
幸いにも、俺にはそれまでに金を稼ぐ手段があり、貯金は一家庭が貯める財産に等しいほどあった。
その額なんと大よそ3000万円ほど。

別にやましい事をしたわけでも、宝くじを当てたわけでもない。
働いただけだった、小学生のときからずっとだ、もっと具体的には年ぐらい。
仕事は、『魔を狩る』こと。

この平和な世界にも、一つ裏を捲れば様々な悪や事件、そして怪物どもが跋扈するのだ。
その中の後者、怪物。
それは他には『妖怪』『魔物』『外道』などの言い方をすれば一番適切だろう。
普段は目に見えない存在、だけど、この世界に確実に存在する『闇夜の住人』たち。
そして、中でも一番性質が悪いのが『外道』。
言ってしまえば悪鬼悪霊の類。
己が欲望に忠実で、理性のない存在だ。

俺はその怪物どもの『外道』を狩ることを生業としている。
俺にはどうにもそっちで食っていける才能があるようで、幼いころから実戦で鍛え上げた腕は着実に伸びてきていて、今ではちょっとした有名人である。
裏の世界、『退魔士-ハンター-』としては、だが。

欠伸をしながら歩き慣れた道を歩く。
この道は県立伊勢原高校に向かう道で、その高校が俺の通う高校だ。
昨晩、遅くまで外道を狩っていたので睡眠時間が大幅に削られ、今日はやたらに眠かった。

基本的に狩りは依頼制で、依頼人が退魔士組合を通して日本全国に広がる退魔士に依頼が届けられる。
しかも、その依頼は基本的に高額なのだ。
基本料金もさることながら、危険手当金と成功報酬、そしてより強い退魔士にやってもらうために増額する。

こうなって来ると人間というのは業が深く、高額の依頼しかとらなくなる。
それで泣くのが金のない依頼者。
一応、依頼のリストには載るが、低額の依頼を受ける人なぞそうは居ない。
中に居るには居るが腕が悪くて高額の依頼を任せられない退魔士などなのだ。
基本的に、額とは関係なく、高額の依頼だろうが低額の依頼だろうが魔物は強いときは強いのだ。

そうなってくると、目を通すべきなのは退魔士組合が配当する危険手当の欄である。
ここを見ればどのぐらい危険かは解る。
そして、俺はいつも小額かつ危険手当の多い依頼や、とにかく額の低い依頼を基本的に受けている。
理由は単純だ、ただのヒーロー願望とも言えるが、基本的に後味が悪くなるのがいやなだけ。
自分が受けなかったせいで困ってる人がさらに困ってしまうのは何となく後味を悪く感じるからだ。
その為、俺はいつも『お人好し』とか『偽善者』と同業者に言われるがそれでもいいと思う。
偽善でも、助かる人がいるなら良いじゃないかと思うから。

ただ、そのせいで収入が厳しく。
他にもバイトをしながらの生活なので体が参ってしまいそうなのは言うまでもなかった。
だから──

「今日の学校、休もうかな」

そう思ってしまうのは自然の摂理だろうと思う。
だって、この若い身空で過労でぶっ倒れるのやだし。

「はいはい、お兄様、おバカなことを行ってないで早く学校に行きましょうね」
いつの間にか俺の横に居た軽いウェーブのかかった長い髪の制服姿の少女がそういった。
慎重は俺と同じぐらいで、心持あちらさんのほうが背が高い。
スタイルもモデル並みに良いというありえないほどの美人さん。
「あぁ?うん、でもだるいんだよ、それと何時の間にいたんだ冬美?」

彼女の名前は海部野冬美。
俺の同い年の腹違いの妹。
ちなみに、腹違いだからとはいえ俺の親父は浮気しているわけではない。
昔風に言えば側室なるものだそーだ。
俺の母親が。
そして、冬美は正室の娘で、昔の俺の立場で言えば高貴かつ神聖な存在であったわけだ、
そんな扱いはしてなかったが。

そもそも、何でそんなモンがあるのかというと。
『海部野』という家柄は、おおむか〜しから続く古い退魔士の家柄で。
退魔士組合とは別の退魔士の組合の大手で、それなりの実力を持つ。
表社会でも土建会社、病院、薬物の研究所保持と無意味に金の或る家柄なのだ。

そんな家柄だからカビ臭い風習は大昔のままで、現在の日本国憲法に真っ向から逆らう体制なのだ。
そして、その日本国憲法も『海部野』という古くカビ臭く閉鎖的かつ独善的な小社会において意味を成さず、
また逆らうものも近年までは一人も居なかった。
そう、俺以外には。

「そんなのは退魔士組合なんかの仕事を請けているからそうなるのです。
 『海部野』に居ればもっと安全かつ実入りの良い仕事だっていくらでも──」
「でも、『海部野』だとお金のない人の声は汲み取ってないからな。(ついでに本家の奴とは会いたくないし)
 偽善だが、俺は俺が楽しくて幸せで平和に生きるためには、周囲の人間の悲しみを少しでも和らげ、笑いあえる事が良いと思った。
 だからこそ、弱者の声に耳を傾けるのが力あるものの務めだと思いたいんだ」
冬美の言葉をさえぎって言う。
俺の言葉に妹はため息をついて言った。
「──はぁ、いつもそうおっしゃられますね」
「まぁな、理由は特にないけど、そう思ったからそうしてる。
 別に俺がやる必要性はないけど、誰もやらないだけど誰かがやらなくちゃいけないこと、
 それに対して俺は手の届く範囲でやってみようと思ってる・・・。
 あぁ、なんか言ってて凄く青臭い事言ってる気がしてきたぞ!
 急に恥ずかしくなってきたっ!!」

俺は唐突に湧き出てきた気恥ずかしさを口にすると、冬美はくすくすと笑う。
「いつもどうりだね、お兄ちゃん?」
冬美もようやくお上品言葉をやめた。
この娘は家柄上、敬語なんだかお上品なんだか知らないが、そういう言葉を良く使うのだ。
「まぁな・・・、くそ、ああいうセリフもう言いたくないかも・・・。
 メッチャ恥ずかしいぞ!」
「いつも自爆してるよね?学習力なさ過ぎだよ」
その笑顔と共に出た言葉を聞きながら俺はうむぅと唸りながら学校へと向かった。

--->伊勢原高校・教室

HRが終了し、友人と談笑している間に教師が教室に入ってきた。
「それでは、これよりこの間に通達しておいたように理科の実力テストを行う」
巌のように厳つい顔をした理科の教師がそういった。
「なっ────!!!」
俺に絶望的な緊張が走る。
周囲の人間は自信無さ気な呻きや慟哭を挙げている。
「───そんなのっ、初めて知ったぞ」
やっとの思いで吐き出せたのはそれだけだった。
「そりゃ、海部野は授業中良く寝てるからな」
隣の席の南山君はそういった。
「しかも、コレ、成績に反映するらしいぜ?」
「な、なんですとぉ!?」
「グォルァ海部野!叫んどらんでとっとと準備せんかっ!!」
俺の魂の叫びに理科の教師(鬼)は不敵な笑みを浮かべてそういった。
「イエス、サー・・・とほほ・・・」
俺は不利な戦いに身を投じた。

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